住まいと暮らし、相続に特化したFP会社  1級建築士事務所併設

遺言書がなかった事例

自分と血を分けた姉がいたことを父の葬儀ではじめて知った・・・

OLで28歳のAさんのショックは想像以上であったようだ。それは、Aさんの父親が交通事故で亡くなり、葬儀の席で、見知らぬ女性2人が遺族の席に座っていたのである。その女性2人の存在を教えてくれたのは叔母であった。葬式の夜にAさんの母が後妻であることや隣の席にいた女性がAさんの異母姉妹であることを葬儀の夜にはじめて知ったのである。それは、まさに壮烈な遺産争族のはじまりを予想される前兆のようでもあった。
 

「実は葬儀の後、母は精神的に参ってしまい入院してしまいました。相続のことこれからどうしたらいいのか・・・」と困惑と不安を隠せない表情で相談してきたのはまだ20代の独身女性のAさん。Aさんの父親の相続財産は不動産と預貯金だけである。金融資産が3000万円ほどで、不動産は自宅マンションと賃貸マンションの二つで6000万円ほど。相続財産は合わせて9000万円になる。この金額は相続人が4人ということで基礎控除が9000万円となり、相続税がかかるかかからないかというところでもある。
Aさんにとっては相続税の問題よりも、ある日突然現れた異母姉妹の存在がとても気がかりだったようだ。Aさんのお母さんは突如事故死したことに精神的に強烈なショックを受け葬式後すぐに入院してしまった。Aさんのお母さんは毎日「財産を取られる・・・」とうなされて欝状態が続いていた。

 

一通の内容証明ではじまる争族問題

そんなある日「内容証明が届きました・・・」となった。それは異母姉妹である2人の姉の代理人である弁護士からの遺産分割請求の内容証明書であった。弁護士からの文面ではあるが丁寧で礼節のある内容にほっとする反面、真意はずばり遺産を法定相続分下さい」と読みとれた。
弁護士が介入してきたことでいよいよ争族問題が急浮上してきたわけでもある。Aさんが母親から聞かされていることは「今の財産の全ては夫婦二人で裸一貫働いて築いた財産で、先妻には離婚時に財産の全てを渡してあるので今更財産を渡したくない・・・」というものである。
しかし、残念ながら現在の民法では先妻の子である2人の姉妹へそれぞれ遺産の1/6となり、2人で合わせて全遺産の1/3の遺産を受け取る権利があるのも事実である。もちろん遺言書があればいわゆる遺留分だけになるので1/3が1/6の半分に減額されるのだが、突然の相続の発生でその準備もしていなかった。

 

早めの和解でハッピー相続を実現

弁護士を代理人にしたAさんの相続問題は半年ほど時間が経過したころ無事に解決できた。争っても時間の消耗と知ったAさんは、遺産分割の係争に入ってしまった現実の解決策としては早期解決を目指すために最終的に法定相続分による遺産分割で和解した。若いAさんにとっては今回の遺産分割の問題解決を「人生の一つの大きな出来事でもあり、またとても貴重な体験と勉強ができました・・・」と語った。
遺産分割後、Aさんとお母さんは無事、自宅のマンションと不動産収入源である賃貸マンションを相続することができた。しかし、金融資産の3000万円すべてが相手方の相続となりAさんと母親には現金なるものはまったく残らない結果となった。
しかし、Aさんのご両親が築いてきた自宅と唯一の不動産収入源である賃貸マンションを相続できたことは、結果的にはハッピー相続で終わったと思われる。Aさんにとっての次の課題は、自分の姉たちといつかはほんとうの和解をして再会できることを夢みている。いつか、その願いは実現できると確信をもっている。
このAさんの事例では、遺言書があれば遺留分だけの請求ということで、もっと現金が残ったはずであるが、相続問題の本質は遺産分割だけではない。親族の複雑な関係とその中での人間ドラマも関係してくる。相続はやはりハッピー相続でありたいと願うばかりである。